男子バドミントン部に所属する山根と赤倉。
キャプテンとマネージャー、立場は違えど固い友情で結ばれたふたり。
そんな彼らがのぞむ最後の大会。
果たして結果は・・・
スポンサード リンク
男子バドミントン部に所属する山根と赤倉。
キャプテンとマネージャー、立場は違えど固い友情で結ばれたふたり。
そんな彼らがのぞむ最後の大会。
果たして結果は・・・
スポンサード リンク
ヒリヒリするおでこをさすりながら、教室のドアを乱暴に開ける。
「廊下は走らない」が学校の常識なのだが、そんなことに構っていられない。
抱えた荷物が脇腹を打つ。
ジャージに着替えると、強引にシューズを履いて体育館へ。
力いっぱい扉を開けるとワックスの匂いがした。
誰もいない体育館、いつものようにモップをかけて必要な用具を出す。
ちょうどネットを張り終わって一息ついていると、部員たちがシューズを鳴らしながら入ってきた。
僕に気づくと元気に声をかけてくれる。
負けないくらい元気にあいさつを返した。
僕たちは、まもなく開かれる大会に向けて猛練習中だ。
3年にとっては最後の大会だ。
僕はマネージャーをやっている。
1年の終わりまではプレーヤーとしてがんばっていたが、ひざを痛めて引退した
それでも、何かの形でバドミントンに関わりたいと思って、この仕事をやっている。
練習が終わるのは夜9時過ぎ、外は真っ暗だ。
学校側はなかなか承知しなかったが、最後の大会にかける僕たちの意気込みが通じて、この時間まで練習ができるようになった。
片付けもひと通り終わって、そろそろ帰ろうかと思っていたときだった。
後ろから声をかけられた。
「何だ、まだ残ってたのかよ」
今年、部長になった赤倉だ。
クラスは違うが、新入生の頃から一緒にがんばってきた一番の親友だ。
この部活で、3年生は僕と赤倉のふたりだけだ。
「帰ろうぜ、もう遅いよ。」
「ああ。」
学生服に着替えた僕たちは、無言のまま帰路についた。
星のない空に、月がひとつだけ青白く光っている。
赤倉が僕を呼びとめた。
振り向くといつもの笑顔があった。
「大会、勝てると良いな。」
時間というのは、欲しいときに限ってないものだ。
あっという間に日は流れて、能天気な晴天の下、大会が始まった。
コートの中には、肩で息をする赤倉がいた。
赤倉はこのゲームに勝てば次の大会に進める。
長い付き合いだからわかるけれど、彼は人の面倒を見るようなタイプじゃない。
厳しい課題を自分に課して、ひとりでコツコツ進む職人肌の人間だ。
それでも、キャプテンになってからは、みんながうまくなるための練習を考え、休日にはひとりで自主練をしていた。
後輩たちと衝突することもあった。
ふたりしかいない3年のひとりとして、ずっとずっと苦しんできた。
負けて欲しくなかった。
こんなにがんばって、ここまできたんだ。
お前だって、もっともっとバドミントンやりたいだろ?
コートの外からこんなことを言うのは、身勝手だとわかっている。
だけど言わずにはいられなかった。
「がんばれ。がんばれ赤倉!!」
最後のスマッシュは、わずかにアウトだった。
騒がしい体育館の中で、シャトルがコートに落ちる音がはっきりと聞こえた。
アウトの判定に、グッと天井を見上げた赤倉は、今にも倒れるんじゃないかと思うほど弱く見えた。
だけど、最後まで誰の手も借りずにゆっくりとここまで戻ってきた。
そして、部員たちが次々と言葉をかける中、僕の前で崩れるように床に手をついた。
途切れそうに小さい、震える声で言った。
床に大粒の涙がこぼれ落ちた。
「すまん、山根。」
「えっ!?」
ふと気がつくと部員たちが全員、僕たちに頭を下げていた。
「山根さん、長い間お疲れ様でした。」
「今まで本当にありがとうございました。」
「ずっと助けてくれたのに、次の大会連れていけなくてすみません。」
僕は何のことかわからずに呆然としていた。
次々と僕たちにかけられる言葉。
周りの景色がぼやけはじめた。
そこで始めて、僕は自分が泣いていることに気がついた。
赤倉も泣いていた。
誰かが頭からタオルをかけてくれた。
体育館の照明が妙に柔らかく、優しく見えた。
スポンサード リンク