本当に教え子の立場を理解する方法とは?
コーチ
指導者はプレイヤーを指導する立場で、プレイヤーは指導者の指導を受ける立場。
立場が違えば、当然そこにギャップが生まれます。
相手の立場に立つということは、円滑な指導のために欠かせないスキルです。
「俺はいつも相手の立場に立とうとしている!!」
「わたしは常にプレイヤーの立場でものを考えている!!」
と自信を持って言える方。
残念ですが、あなたは間違いなく相手の立場に立てていません。
本当に相手の立場に立てるバドミントンの一流コーチはこう考えます。
それではストーリーをご覧ください。
今日は学校の創立記念日。
岡崎は自宅でのんびりと本を読んでいた。
たまにはこんな日もあっていい。
プルルル・・・プルルル・・・
1本の電話が岡崎を現実に引き戻した。
「はい、岡崎です。」
「岸田です。」
電話の主は、バドミントン部 部長の岸田だった。
声のトーンからすると...
「おう、岸田か。どうした?」
「1年の山瀬のことなんですけど。」
「ん?また何かやらかしたのか?」
「それが、他の1年とまたもめたみたいで。何とかしてくれってクレームがあがってるんです。」
一度自分が正しいと思ったら絶対に退かない性格の山瀬は、融通の利かないところがあり、他の部員とよくもめごとを起こす。
「まあ確かに山瀬の言うことも理解はできるんですけどね。」
何気なくこぼれた岸田の一言。
しかし岡崎はそれを見逃さなかった。
「山瀬の立場なんて理解するな!」
「え!?でも相手の立場を理解するのは大切だと思うんですけど。」
「『理解できる』なんて言ってる時点で理解できてないんだよ。」
電話の向こうでも、岸田の動揺が伝わってくる。
岡崎はかまわずに続けた。
「まずはお前が山瀬について考えてることを何でも気が済むまで言ってみろ。バドミントンのことでも、それ以外のことでも何でもいいから。」
「...何でもですか?」
「何でもだ。」
「ええと、ちょっと融通が利かないかな。」
「ちょっとか?」
「っていうか石頭です。」
「他には?」
「ねちっこいし細かいしシャトルの扱いは雑だし...」
最初は控えめだった岸田も次第にヒートアップして、すごい量の不満を吐き出した。
電話の向こうから岸田の荒い息が聞こえてくる。
落ち着くのを待って、岡崎は続けた。
「それで全部か?」
「ハァ、ハァ・・・はい、もう出しつくしました。」
「それがお前の思ってる山瀬だ。分かるな?」
「はい。」
「じゃあ、山瀬は今の自分をどう思ってるんだろうな?」
その質問を聞いた瞬間、岸田の中にそれまでと全く別の感情が生まれた。
自分はこう思っているけれど、あいつはどう思っているのか知りたいという自然な気持ちになっていた。
電話口からかすかに岡崎の声が聞こえる。
「...おい、岸田、聞こえるか?」
「ん?あ、すみません。」
「相手の気持ちを先に考えると、『でも俺は...』ってなっちまうだろ?でも、自分を先にすれば『じゃあ相手は?』ってなるよな。」
30分前までのモヤモヤは跡形もなく消えていた。
岡崎との電話を終えた岸田は、さっそく山瀬の電話番号を叩くのだった。
ポイント
相手の立場に立とうとした時点で、立てていないという意味、お分かりいただけましたでしょうか。
まずは徹底的に自分の立場を声に出して確認すること。
物事を整理するには、声に出したり、紙に書いたり、とにかく形にすることが重要です。
そして、それを自分の主観として相手に伝えれば、自分の主張は主観だと分かっているのですから反論も素直に受け止めることができます。
正しいゴールにたどり着くためには、正しいスタートに立つ必要があります。
間違えたスタートを切れば、どんなに頑張ってもたどり着くのは間違ったゴールです。
分かりますか?
並のコーチは相手を指導します。
一流のコーチは自分を真実へと導くのです。