教え子に納得される叱り方とは?
指導者
指導者の仕事として最も難しいことの1つが「叱る」こと。
感情に任せて怒鳴れば反発されるのは当たり前だし、だからといって何もいわないのは自分が無能な指導者と認めているようなもの。
「相手をよく観察して、できるだけ具体的な形で叱ること。」
よく言われますよね。
確かにその通りです。
問題をきちんと把握して叱るのは、確かに感情だけで闇雲に叱るよりずっと効果的です。
でも、相手の心に伝わる叱り方をするにはそれだけではダメなんです。
もう1つ高いレベルの把握が必要になります。
さっそく「もう一つ高いレベルの把握」を探しに行きましょう。
それではストーリーをご覧ください。
今日は部活も休み。
一通りの仕事が終わった岡崎は職員室の窓から夕日を見ていた。
しばらくして、ドアがノックされ一人の少年が入ってきた。
バドミントン部の副部長、三橋である。
岡崎を見つけるとまっすぐに近寄ってきた。
「先生。」
「三橋か。今日は部活ないのにどうした?」
「先生、実はちょっと相談が...。」
「そうか。まあ座れよ。」
2年までは何かと手を焼かせる問題児だった三橋も、副部長をするようになってから責任感が出てきたようだ。
いつも何かと相談にやってくる。
「で、どうした?」
「はい。2年の五木のことなんですけど。」
「何かあったのか?」
「あいつ、先生の見ていないところでいつも1年に横暴な態度を取っているんです。」
「そうだな。いつも岸田と注意しているよな。」
「知ってたんですか?」
「そりゃぁ顧問だからな。」
意外そうな表情の三橋。
岡崎は冷めてしまったコーヒーを捨てて、二人分のコーヒーをいれ直した。
「それで何度も注意しているんですけどいつも受け流されちゃって。」
「そうか、大変だな。」
「先生、どうしたらいいんでしょう。」
あの暴れん坊が後輩のことに気を使って悩んでいるなんてな。
岡崎は心の中で、教え子の成長を喜んだ。
「お前ら、五木にどうなって欲しいんだ?」
「そりゃ横暴な態度を直して欲しいですよ。」
「なるほど、で、何て言って注意してるんだ?」
「具体的に横暴な態度の例を挙げて、そこを直せって言ってますけど。」
「ふーん。
でも、強気な態度はあいつの持ち味だろ?そういうプレイで今までも勝ってきた訳だし。あいつは強気な自分が好きなんだよ。それを正面から否定されて、はいそうですかって直せるかな。」
「うーん、確かに難しいかもしれませんね。」
うん。
だいぶ分かってきたようだな。
「お前が五木だとして、訳も分からず横暴な態度を直せって言われたらどう思う?」
「うーん、やっぱり腹が立つかな。」
「そうだろうな。じゃあさ。『お前の強気なプレイはバドミントン部員全員のモチベーションを上げる原動力だ。みんな尊敬しているぞ。』って言われたらどうだ?」
「そりゃ嬉しいですね。」
「じゃあ『そんなチームのムードメーカーが後輩にあんな態度とってたらいけないよな。』っていわれたらどう思う。」
「あ、これじゃダメだよなって思います。」
うなずく三橋を見て、岡崎は言った。
「事実だけを基準に叱っても心には響かないんだよ。本当に伝えたいんだったら、相手の価値観や立場まで考えた上で口を開くんだ。ちょっと難しいけどな。」
職員室を出る三橋の背中に、チームをまとめる者の責任感を感じた岡崎は、そっと微笑むのだった。
ポイント
いかがですか?
「もう一つ高いレベルの把握」とそれを使った叱り方、お分かりいただけましたでしょうか。
確かにきちんと問題点を把握して、それを的確に伝えるのは大切なことです。
コンピュータが相手だったらそれでいいでしょう。
でも、相手は人間です。
それぞれが別の価値観、立場、意識を持っています。
それを無視すれば、伝わらないばかりか反感を買ってしまいます。
一流のコーチは冷静に問題を観察する目とは別にもう一つ、相手の人間性を理解する目を持っています。
まずは相手の全てを認めること。
叱り方どうこうの手段はその後でもいいこと。
それができれば、ただ問題を解決するだけではなく、可能性を伸ばすことができるコーチになれるのです。